異文化

異文化

今年の3月で関東に引っ越してきて13年になります。最初に暮らしていたのは横浜でしたが、来た当時は「横浜」という名前だけでドキドキして、港の見える丘公園や山下公園、中華街など、テレビで見るだけの場所だったところに自分がいることが信じられない思いでした。

横浜のエスカレーターに乗るたびに、ついつい右側に立ってしまい、他の人の邪魔をしてしまうということも多々ありました。13年たった今は、関西に帰省するたびにエスカレーターの左側に立ってしまい、またもや通行の邪魔をしています。

関東に来てすぐの頃は友達もおらず、馴染みのないことばかりで、「関西だったらもっと安くておいしいお店がいっぱいあるのに」とか「どうして関東の人はこんなにツンケンした反応をするんだろう?」と何かにつけネガティブな気持ちでいることが多かった気がします。でも、何年か経ち、友達もできていろいろな経験をするなかで、すっかり関東にも馴染み、今では関西に帰ると「どうして関西の店員さんはこんなに馴れ馴れしいんだろう?」と思うほどです(笑)。

イヤなことがあれば「だからもう関東は」と思ってしまっていた自分が、今思えば不思議です。ただ、それほどたいした違いがない日本国内で居住を変えただけでもそう思うぐらいですから、文化や言語がもっと違う国に行ったとき、あるいは海外の人と接したとき、大きな違和感を感じるのは自然なことだと思います。

昔、イギリスに留学していたころ、グループワークの相談のためにイギリス人のクラスメート数人と集まろうということになりました。留学生の私は英語力では迷惑をかけるので、事前にグループワークの資料を読み込み、メモに意見を書いて、約束の5分前には集合場所に到着していました。

ところが、時間になってもだれも来ないのです。10分ぐらい過ぎて「ソーリー」と言いながらバラバラとみんなが集まってきて、「さあ、やっと始まるか」と思ったら、誰かが「やっぱりお茶飲んでからじゃないとね」と言い出し、みんなお茶を買いに行ってしまう。そのあと、今度こそ始まるかと思ったら、「ごめーん、まだ資料読んでないからちょっと待ってね」

思わず、「はあ~?」と言いたくなりました。イギリスで大学院に進む人はほんの少数なので、かなり「意識高い系」のはずなのですが、万事がこの調子。ジャパニーズスマイルを浮かべたまま、内心「いい加減にしろ!」と思っていた私でした。

あとになってこの件を「イギリス人っていったいどうなってんの?」とイギリス人やイギリス暮らしが長かった人と話したことがありますが、そのとき言われたのが、「学生だからそういうこともあるかもね。仕事のときはそんなことはあんまりないと思うよ」

私自身はイギリスの会社で働いたことはないので、それが単に学生と社会人の違いなのか、国民性なのか判断はつきません。でも、自分のなかで当時「イギリス人はいい加減、日本人だったら時間は守るし、資料も読んでくるはず」という思い込みがあったことに気づきました。確かに日本でも学生だったらありがちかもしれませんし、あるいは、単に「人によって違う」だけなのかもしれません。

異文化に触れると、「日本だったらこんなことは起こらないのに」「この国の人は何でこうなの?」と、ついつい腹を立てたり、ストレスを感じたりしますが、それが本当に文化の違いによるものなのか、自分の偏見なのか、一歩下がって考えてみる必要がありそうだと思った瞬間でした。

関東に来て数年たち、「関西と違う!」というイライラがなくなったころ、横浜に来た当時、山下公園を見てワクワクした気持ちがなくなっていることに気づき寂しく思いました。たとえイライラしたとしても、強烈な異文化体験は、自分を揺さぶったり、考え方を見直したりする良い機会なのだと改めて感じました。早くコロナが終息して、イライラ・ワクワクの旅に出たいものです。

(小宗 睦美)