場の力

場の力

 

コロナ禍になってから、英語の講座も多くが対面授業からオンラインに切り替わりました。担当している通訳講座の関係で雑誌のインタビューを受けたときに、「オンライン授業になって良かったと思う点を教えて下さい」と言われて困ったことがあります。と言うのも、オンライン授業が対面授業に勝る利点がなかなか思いつかないからです。

 

物理的な面であれば、オンライン授業が対面授業より優れている点をいくつかすぐに挙げることはできます。まず、対面授業だと通学が難しい遠方の方に参加してもらえる、これはなんと言ってもオンライン授業の最大の利点です。実際に、私の担当講座でも北海道や関西から参加しておられる方もいらっしゃいますし、ときに海外からの参加者もいます。

 

また、移動の必要がないので、会社の業務がギリギリまであったとしても授業に参加できます。インターネットに接続さえできれば場所はどこでも構わないので、帰宅途中のカラオケボックスで授業に参加している方もおられました。

 

では、精神的な面でオンライン授業が対面授業よりも良い点は?と改めて考えると、インタビューのときも思いつかず、そして、そのあと改めて考えても思いつきません。

 

対面授業だと、生徒さんの表情や動作を通じて、「わからないのかな」とか「よく理解できていそうだな」と生徒さんの理解の度合いを判断していきます。

 

でも、オンラインだと相手の反応は見えにくい。アンテナを張って気配を察知しようとはするものの、対面授業のときよりはるかに入ってくる情報が少ないですし、授業の前後のちょっとした雑談や生徒さん同士のやり取りもないので、講師としても本当にどれだけ授業を理解してもらえているのかかなり心許ない状況です。

 

そして何よりも「場の力」が発揮できない。私は長い年月、通訳学校に通っていましたし、英語やそれ以外の講座には今も参加しています。講師の話しを聞くだけであれば、また一対一であれば、オンラインでもそれほど違いはないかもしれません。でも、ほかの受講者との交流や、その場に一緒に居合わせることで得られる共感や刺激は、オンラインでは非常に得にくい。講師として受講者として、どちらの立場で参加してもそう感じています。

 

それが本当に残念でたまりません。私がずっと通訳学校に通っていたのは、もちろん通訳学校で学べるスキルや教材、講師に魅力を感じていたのもありますが、振返ってみると、一緒に学ぶ仲間がいることが最大の理由でした。

 

ほかの受講者を見て、ときに「負けるもんか」と思ったり、あるいは「この人には勝てないな…」と圧倒されたり。でも、そのおかげで奮起することも多々ありました。また、自分の出来の悪さに落ち込んでいるときは、学校からの帰り道でお茶を飲みながら、「みんな一緒だよ。頑張ろう!」となぐさめてもらったりもしました。

 

ほかの人が努力している様子を見て、「あんなに頑張っているなんてすごい!よし、私も」と思うことができた、私が勉強を続けてこられた理由はまさにこれに尽きると思います。また、お互いにどんな仕事をしているのか、情報交換をするのも楽しい時間でした。

 

オンラインの講座であっても、ほかの受講者の頑張る姿を見て、「私も頑張ろう」と刺激を受けることはあるでしょう。それは、オンライン講座なりの「場の力」だと思います。

 

ただ、講座が終わり、「お疲れさまでした。さよなら~」と言って、プチっとオンライン講座を終了させたときに一瞬にして音声が途切れ、みんなの顔が見えなくなり、沈黙が広がる。余韻も何もなく、突然パソコンの前に一人っきりという状況に戻る。これには私はいつまでたっても慣れそうにありません。

 

ほかの人の気配を感じ取ったり、目が合ってちょっと話してみたり、「さっきの教材難しかったね」と愚痴を言い合ったり、そんなところに対面での「場の力」があるように思います。そして、そんなちょっとしたことが、授業中に単語を何個覚えたということよりも、あとから考えると大切なことのように思えます。対面授業が安心してドンドン開催できる、そんな日が待ち遠しいです。

 

(小宗 睦美)

 

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